『出会いの国の「アリス」―ルイス・キャロル論・作品論』読了

楠本君恵著『出会いの国の「アリス」―ルイス・キャロル論・作品論』読了。期待通りの、面白い本。
第一章「『アリス』の誕生と挿絵画家」では、テニエルのキャロルとの関係性、『不思議の国のアリス』/『鏡の国のアリス』にテニエルが及ぼした影響、テニエルの挿絵の考察、出版社マクミランとの関係や、アーサー・ラッカムの挿絵の考察などが書かれている。テニエルについては、『出会いの国の「アリス」』でも引用されている、マイケル・ハンチャーの『アリスとテニエル』を以前図書館で借りて読んで詳しい本だったが、同書や、マーティン・ガードナーの『注釈付きアリス』("The Annotated Alice")などに記載のある事柄についても、『出会いの国の「アリス」』では、異なった視点が提示されていたりして、新鮮に読めた。例えば、テニエルの提案で『鏡の国アリス』から省かれた幻の章、『かつらをかぶったスズメバチ』についての考察では、

終始不機嫌で頑固な老スズメバチに対するアリスの優しさと忍耐強い対応は、他の章には匹敵する物がないので、(中略)作品は確実に膨らむことだろう。

と評価し、ガードナーの、「他の部分に比べて洗練されていない」「他と重なる言い回しが目立つ」という指摘については、

あくまでゲラ刷りであり、キャロルが繰り返し推敲を重ねるタイプの作家だったこと、後にキャロルが不要になったこの部分を他に移そうとしたのだろうと考えることで説明はつくだろう。

としているのは、なかなか説得力がある説で、『かつらをかぶったスズメバチ』への認識を改めなければいけないかもしれないと思わされた。
ラッカムが、「鏡の国のアリス」の挿絵も描くことに積極的であったことを本書ではじめて知った。それが叶わなかった経緯も書かれている。
第二章「『アリス』の舞台化」では、キャロルが深く関わりながら、テニエルの挿絵のようには後世に残らなかった、舞台版アリスについての考察で、はじめて知る事柄ばかりで興味深かった。
第二部の作品論では、著者が、2冊のアリスから、アイデンティティ探求の物語を読み取り、なぜキャロルがそう書いたかについて迫っていくのが、読み応えががある。
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The Annotated Alice: The Definitive Edition

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